そのしつけで大丈夫?愛犬が言うことを聞かなくなるしつけ方とは
そのしつけで大丈夫?愛犬が言うことを聞かなくなるしつけ方とは
犬と一緒に生活していれば、やはり『しつけの悩み』は尽きないですよね…
毎日毎日同じことを注意していると、嫌気がさしてきたり、
そんなことが永遠に繰り返されていると、イライラが溜まってつい、愛犬に強く当たってしまうこともあるかもしれません。
また、
「犬には主従関係が必要だ!!」
などという、(前時代的で意味のない)情報を当てにしてしまい、何かと愛犬に対して不憫なしつけ方をしてしまっているかもしれません。
しかし、
・大声でどなりつける
・体罰を与える(たたく・けるなど)
・引っ繰り返してお腹を押さえつけ、無抵抗を強制する
・降参するまでマズルをがっちり握る
・チョークチェーン・ピンチカラー・電気ショックカラーの使用
これらの罰を使って、問題行動を修正しようとすると、かえって問題行動が悪化する場合があります。
今回は、
「なぜそうした『罰を与えるしつけ』がいけないのか」
ということへの根本的な理由と、
「罰を与えてしつけがちな場面と、その対処法」
について解説していきたいと思います!
インターネットの古い情報や、テレビでの古い情報、非科学的な情報をそのまま受け入れるのはやめましょう。
『罰を与えるしつけ』がいけない理由
そもそも『罰』は必要ない
まず、そもそものお話ですが、
「罰を与えて問題行動をやめさせる事」より
「なぜその問題行動が出ているのか?」
を考えることが、愛犬にしつけを覚えてもらう最初のステップです。
犬が問題行動を起こすのは、問題行動を取ることによって、何かしらのメリットがあるからです。何が犬にとってのメリット(環境であったり刺激であったり)になっているのかを考えてみて欲しいのです。
なので飼い主すべきことは、
「(罰などで強制的に)問題行動を安直にやめさせる」
のではなく、
「問題行動を起こしている『原因』を突き止め、環境を改善すること」です。
例えば「トイレの失敗」でも、
『原因』が、『水の飲ませすぎ』なのか、『単にトイレの位置を把握していない』からなのか、などの違いで行うべき対処法も変わってきますよね。
であれば、クレートやサークルを使って、トイレが成功しやすい環境を用意するとか、家具を噛むのであれば、犬ではなく家具をパーテーションで囲むなど犬がそれをやらずに済む環境作りをして欲しいのです。
犬を撫でようとして手を伸ばすと威嚇してくるのであれば、無理に犬を撫でなければ良いし、撫でられることが犬にとって受け入れやすくなるように、罰ではなく報酬を使ってトレーニングすべきです。
フードを与える時に、人の手も一緒に噛んでしまうなら、当面は人の手からではなく、フードを床に投げて与えれば済む話です。
このように、まずは
「なぜその問題行動が出ているのか?」
「どうしたら、その問題行動が起こりにくくなる環境を作れるか?」
ということを飼い主さんが考えて見ましょう!
これを意識するだけでも、
「『罰を与えるしつけ』なんて必要ないじゃん」
と気付くはずです。
『罰』を与えることのデメリット
上記だけでも『罰を与えるしつけ』が必要ないことは理解していただけたかと思いますが、一応『罰』を与えることによるデメリットも、いくつか書いていきたいと思います!
1.攻撃行動の悪化
例えば、噛み癖のある犬に対して、罰を使って恐怖でその攻撃行動を抑えようとすると、「歯をむく」「唸る」などの警告なしに即座に激しく咬みつくように、症状が悪化する場合があります。
また、こうした抑圧に対して、犬が自分の身を守るため、突然爆発的な攻撃行動を起こすように悪化してしまう場合もあるので、十分注意が必要です。
2.過剰反応の助長
他の犬への吠え掛かりや、走る人や子供を追う行動を修正する際に、
「叩く」「蹴る」「チョークチェーンで絞め上げる」
などの罰を使い続ければ、余計にその対象物に対して嫌な印象が植えつけられ、より早い段階で対象物に対処しようと犬の本能が働くようになります。
その結果、かえって犬が過剰反応するようになったり、今までは大丈夫だった対象物にまで反応するようになる恐れがあります。
3.犬の身体への被害
チョークチェーンなどを使って犬の首を絞める罰を使っていると、
「皮膚や気管の傷害」「神経の傷害」「致死性の肺水腫」「緑内障の悪化」
などを招くことがあります。やめましょう。
仮に万が一、過剰な罰を与え続けて犬が大人しくなったとしても、これは「学習性無力感」と呼ばれる状態で、「何をやっても無駄、諦め、回避、逃避すらできなくなってしまった状態」に陥っている可能性が高いです。人で言う『鬱状態』にしてしまい、<u>犬の心をダメにしてしまっている最悪のケース</u>です。
それに、犬の学習の神経回路の割合は報酬系回路8:嫌悪系回路2です。
つまり犬は褒められることを好む動物なのです。褒めてしつける方が、圧倒的に学習が進むのです。
倫理的にも・効能的にも『罰を与えるしつけ』はいけないというわけです。
「罰を与えてしつけがちな場面と、その対処法」
それでは、実際に「罰を与えてしつけてしまいがちな場面」と「そうした問題行動への適切な対処法の例」について、いくつか確認していきましょう。
1.「家具を噛む」
家具を噛んでしまうなら、噛むためのおもちゃを犬のために何パターンか用意する。
クッションなどを噛みちぎってしまうなら、犬のおもちゃとして与えて良いモノを用意し、「狩り」に見立てた遊び方で、飼い主が犬と思いっきり遊んであげる。
2.「家の外の音に反応して、吠えてしまう」
家の外の音に反応して吠えてしまうなら、家の外の音が聞こえにくい場所にクレートを設置し、安心する居場所を犬に与えてあげる。
3.「食事中にフードボウルを守る」
食事中にフードボウルを守るなら、フードボウルは使わずにトレーニングで少しずつ与える。
4.「(退屈で)いたずらをする」
犬が退屈していたずらをしているなら、鼻を使ってフードを探させることや、退屈しないで時間を過ごせるように知育トーイなどを利用する。
散歩の時間を増やしたり、回数を増やしたりして、適度な刺激を与え精神的・身体的欲求を満たしてやる。
5.「散歩中、引っ張ってくる」
引っ張って欲しくないなら、犬が興奮し過ぎない散歩コースを選んだ上で、引っ張らない状態でいられた時に、手元からご褒美を与えたり、ご褒美としてニオイ嗅ぎをさせたり、引っ張らない状態が長く維持できるように練習する。
まとめ
いかがでしたか?
意外と意識・無意識的に関わらず、あなたも日常の中で『罰を与えるしつけ』を行なってしまっていたかもしれません。
『罰を与えるしつけ』はやはり、誰にとってもいい効果を生みません。
まずは、問題行動を起こす『原因』を突き止め、問題行動改善のために環境を整えることから始めましょう!
そして問題行動に代わってどういう行動を取って欲しいのかを決め、それがやりやすくなるよう、ご褒美使って(遊びもニオイ嗅ぎ等も含む)犬にトレーニングをしましょう。
参考文献:「犬と猫の行動学 基礎から臨床へ」 内田佳子・菊水健史
【栗林 純子】
1972年生まれ。国立大学卒業後、大手金融サービス業の会社員を経てドッグトレーニングの世界に入る。家庭犬訓練所に入所し、実務経験を積む。ドッグスクールのインストラクターを経て、クリッカートレーニングを学ぶためにイギリスに短期留学。2004年に「空ドッグスクール」を立ち上げ独立。その後、犬の行動学を学び、米国CCPDT(Certification Council for Professional Dog Trainers)認定CPDT-KA国際ライセンスを取得。現在JAPDT(日本ペットドッグトレーナーズ協会)の事業企画委員を務める。空ドッグスクール代表兼ドッグトレーナー。
著書:犬から見える飼い主の姿