寝てる時に撫でるのは逆効果?睡眠時に犬が撫でられると怒る理由
寝てる時に撫でるのは逆効果?睡眠時に犬が撫でられると怒る理由
~子犬の時は大丈夫だったのに、成犬になるとなぜ撫でると噛むようになるのか~
犬が寝ている姿、可愛くて本当に愛おしくなりますよね!!!
フワフワのモフモフで柔らかくて、静かに寝息を立てている姿は、まるで天使です。
特に、子犬を迎え入れて、眠っている姿を見た時などは、たまらなく可愛くてついつい撫でたくなると思います。
ペットショップでこの可愛さを目の当たりにして、犬を迎え入れることに決めた方も多いかもしれません!
しかし、そんな可愛い犬の寝ている姿ですが…
可愛いからといって、やたらめったらに触っていると犬と飼い主の関係を悪化させる原因になりかねないんです。
さらに実は、多くの飼い主さんが経験する
「ソファで寝てしまってハウスに動かそうとしたら、噛まれた」
「寝ているとこを移動させようとしたら、いきなり吠えられた!」
などのトラブルも、この『寝ている間に触る』問題が大きく関わってきます!!
今回は、そんな『犬が寝ている間に触ってしまうことによって発生する問題』について解説していきたいと思います。
犬にとって『睡眠』とは?
ではまず最初に、そもそも犬にとって『眠る』という行為はどんな意味を持つのか考えてみましょう。
『眠る』とは、動物にとって個体を維持するための『休息行動』です。
言い換えれば「生命を維持するために、肉体的なエネルギー消費を抑え、その回復を目指す行動」です。
これは人間も同じですね。眠らなければ動物は死んでしまいます。
これを踏まえると、「寝ている犬に触る」ということは、本質的には「生命活動を阻害する」ということに他ならないんですね。
大袈裟といえば大袈裟かもしれません。
でも、よく考えてみれば寝ている時に誰かに触られて起こされたら誰だって嫌な気分になりますよね。
ただただ犬の寝顔が可愛くて、愛情表現として撫でているつもりでもそれは愛犬との仲を悪くしている原因かもしれませんので、過剰に睡眠時に撫でることは良いことではなさそうです。
もちろん、個体差があって、寝ている間に撫でられても全く平気な犬や、それどころか触っている相手が飼い主であることを目で見て確認して、さらに安心して再び眠りにつく犬もいます。
こうした反応は、その子の持っている気質や性格に大きく依存する個体差なので、上記の『睡眠の本質』を踏まえた上で、
「自分の愛犬はどういうタイプなのか?」
ということを見極めるのが大切です!
成長するにつれて、撫でたら攻撃されるようになる理由
では、睡眠の働きについて学んだところで、ここからは具体的な問題例について考えていきたいと思います。
ここでは、多くの飼い主さんが悩んでいる、
「子犬の頃は眠っている犬に触っても大丈夫だったのに、成長するにつれて噛んだり威嚇したりするようになる」
のがなぜなのか、ということをお話ししていきたいと思います!!!
成長による『好奇心』と『警戒心』のバランス変化
上記のような、成長による反応の変化は、『好奇心』と『警戒心』のバランスの変化によるところが大きいということがわかっています。
(参照: http://tomo-iki.jp/socialization)
上記のグラフは、犬が成長を『好奇心』・『警戒心』の度合いの変化を表したものです。
初めて犬を迎え入れる時、子犬の週齢は生後16週齢未満のことが多いのですが、その時期の子犬たちには、まだまだ警戒心が芽生えておらず、一番好奇心旺盛な時期なんです。
だからこそ、眠っている時に不意打ちで触っても、それを危険として察知しないため触っても怒らなかったり、攻撃を起こしたりしようとはしないんです。
一方で、13週を超えてくると好奇心が著しく低下して、代わりに警戒心が発達して来ます。
これは動物としては当たり前のことで、いつまでも警戒心がなく好奇心ばかり旺盛であったら、すぐに他の動物に狙われたり、事故に遭ったりして種の保存が難しくなるからなんです。犬の生命個体維持のために、備わった心の成長の仕組みなんですね。
そのため、警戒心の高い犬に対して、眠っている時に触ると、触られたことを「攻撃された!」と勘違いしたり、「身の危険だ!」と捉えてしまい、自分を守る方法として、威嚇したり噛もうとしたりするようになるというわけなんです。
学習によるもの
さらに、飼い主が「寝ている犬を触る→吠えられる・噛まれる」ということを、(ある種性懲りなく)普段から繰り返していると…
というふうに学習してしまい、その攻撃性が強固なものになっていきます。
以上が「子犬の頃は眠っている犬に触っても大丈夫だったのに、成長するにつれて噛んだり威嚇したりするようになる」理由です。
まとめ
以上、『犬が寝ている間に触ってしまうことによって発生する問題』について、睡眠の本質という側面と、犬の成長による『警戒心』の変化や学習という側面から見てきました!
人間にとっては、
「前は平気だったのに…」
「寝ている犬を愛でたかったのに…」
と感傷的な気分になるかもしれません。
けれども、犬も悪気があるわけではなく、生きるために本能的な行動を取っているだけなのです。
一方で、犬は眠るときに「ジャマはされたくないけど人の傍や近くに居たい」とも思っています。
なので、人の近くではあるけれども、犬の睡眠の邪魔にならないような場所に寝床を設置してあげると良いと思います。
どんなに可愛くて、触りたくなっても、その結果、威嚇や攻撃性が出る犬の場合は眠っている時・眠い時にジャマをしないこと。
犬に悪気はありません。反射的に本能で取っている行動です。
この問題を抱えているお宅では、今よりさらに悪化しないように、「無理に触ろう!」なんて決して思わずに、眠っている犬は放っておいてあげましょう。お互いのストレスを減らし、安全に安心して暮らすために守って欲しいお約束事です。
お互いがストレスなく気持ちよく過ごせるように、犬の安心できる睡眠をデザインしてあげましょう!!!
【栗林 純子】
1972年生まれ。国立大学卒業後、大手金融サービス業の会社員を経てドッグトレーニングの世界に入る。家庭犬訓練所に入所し、実務経験を積む。ドッグスクールのインストラクターを経て、クリッカートレーニングを学ぶためにイギリスに短期留学。2004年に「空ドッグスクール」を立ち上げ独立。その後、犬の行動学を学び、米国CCPDT(Certification Council for Professional Dog Trainers)認定CPDT-KA国際ライセンスを取得。現在JAPDT(日本ペットドッグトレーナーズ協会)の事業企画委員を務める。空ドッグスクール代表兼ドッグトレーナー。
著書:犬から見える飼い主の姿