あなたの愛犬は、“どこでも”おすわりできますか?〜犬の『弁別性』〜

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突然ですが質問です。

「あなたの愛犬は、”いつでも”・”どこでも”オスワリすることができますか?」

 

 

この質問に自信を持って「はい!」と答えられる方は、日頃から本当に素晴らしいトレーニングをされている方だと思います。

そんな方々には、本記事で学べることはあまりないかもしれません(笑)

 

ですが、多くの飼い主さんは、一部の曇りもなく「はい!」とは答えられないのではないでしょうか?

多かれ少なかれ、多くの飼い主さんは「犬のしつけレベル」に問題意識を持たれていると思います。

 

例えば、私が先日ドッグカフェに行ったとき、

インスタ用の撮影ブースで、愛犬の写真を撮っている飼い主さんをたくさん見かけましたが、どの飼い主さんも、

「オスワリ!オスワリ!オスワリ!」と連呼したり、

「オスワリ!!!」と言いながら犬のお尻を手で抑えて座らせようとしたり、

「オスワ... 座りなさい!!!」と、困った挙句命令口調になったりと…

 

最後までジッと座り続けて、満足いく写真を撮影できたペアは1割にも満たなかったと思います。

 

このように、

「普段は、普通にオスワリしてくれるのに、外出先やドッグカフェになると急に言うことを聞いてくれなくなる」

という問題はなぜ起きるのでしょうか?

 

今回はそんな問題に対して、犬の特徴である『弁別(弁別性)』という視点から、どのようにすれば“いつでも”・“どこでも”愛犬が言うことを聞いてくれるようになるかについてのヒントを解説していきます!

 

 

場面が変わると、言うことを聞いてくれなくなる理由

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まず、前置きをしておきたいと思いますが...

「家以外の場所に場面が変わると、しつけたことでも言うことを聞いてくれなくなる」

という問題を抱えている飼い主さんが多いと思いますが、それは

飼い主さんのしつけ方や、愛犬が全てイケないというワケではありません!

 

むしろ、家の中ではきちんということを聞いてくれるような、コミュニケーションを取れている間柄であれば、関係は良好だともいえるでしょう!

いつもの家の中とは違う、カフェという空間で、他にもたくさんの犬が居て、他にもたくさんの人が居て、ザワザワしていて、店員さんがウロウロしていて、美味しいオヤツのニオイや飼い主さんの美味しい食べ物のニオイもたくさんしている場所だから出来なかったのです。

それは飼い主さんのせいでも、ワンちゃんが反抗的になっているワケでもないのです。

 

こうした『外では言うこと聞かない問題』が発生する原因は単純に、

あらゆる時間・あらゆる<u>場所・あらゆる刺激の中でのしつけ練習が不足している

ということなのです。

 

この「あらゆる場面」で練習をしなければしつけを覚えてくれないという、犬の特性の裏側に『弁別(弁別性)』というものがあるんです。

 

 

『弁別(弁別性)』とは?

『弁別(弁別性)』という単語はあまり耳馴染みがないですよね。

『弁別性』で調べてみると、

 

2つ以上の異なる刺激の間の差異を感知する作用。

操作的には弁別反応,すなわち提示された2つ以上の刺激に対して,被験体が異なる反応をすること。

弁別されうる最小の刺激差異を弁別閾または丁度可知差異という。

言語による伝達が十分に可能な成人の場合には,弁別の測定は精神測定法によることが多い。

乳幼児または動物の場合には,非言語的弁別反応によって調べることができる。

(ブリタニカ国際大百科辞典)

 

と書いてあります。

少し難しく書かれていますが、つまるところ『弁別性』とは、

「些細な違いを認識できる(してしまう)能力」

と言い換えることができます!!!

 

例えば、

「そこの『ペットボトル』とって!!!」

と言われた時、

 

人間であれば、

2L・500mlだろうが、

中身がお茶やら水やらなんであれ、

形が四角・円錐でも何でもいいけど、

とにかく、近くにある『縦長の、飲み口のついたプラスチック容器』を探しますよね。

 

つまり、大きさ・色・中身・形などの些細な違いはとりあえず無視して、

『ペットボトル』という大きな・抽象的な分類として、区別することができます。

 

 

一方で、犬のような『弁別性』の高い生物は、このように高次元で抽象化して物事を分類することが苦手で、同じような物・事に対しても、些細な違いを認識します。

 

 

上記のペットボトルの例で言うなれば、

「この大きい2Lのもペットボトル」

「小さい500mlのもペットボトル」

「キャップが白いのもペットボトル」

「キャップが黄色くてもペットボトル」

などなど…

 

と、1つ1つ細かい違いを指摘しながら、同じものだということを教えてあげなければ、同じものとして学習することができません。

 

 

つまり、見た目が同じようなモノで用途が同じであっても、まるっきり同じモノではない場合、ほんの少しの形の違い、見た目の違い、ニオイの違い、などで区別して「違うモノ」と判断する生き物なのです。この似ているモノを括りとして認識せず、別物だと判断することを「弁別」と呼びます。

 

犬は非常に「弁別」に優れている生き物なのです。

 

『弁別性』を意識したトレーニン

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家の中でオスワリ出来るワンちゃんが、家の外に一歩出ると途端にオスワリ出来なくなる理由は、この『弁別性』の高さゆえだということが理解できたかと思います!
そう考えると、

『あらゆる時間・あらゆる場所・あらゆる刺激の中でのしつけ練習』

が重要だということは、自明ですよね。

 

なので、愛犬がどこでもオスワリをできるようにするためには、

・散歩先の公園

・何気無い散歩中

・ご飯の前以外の家の中でいきなり

など、様々な場面で練習していきましょう!

 

たかがオスワリ一つと思われるかもしれませんが、自分の犬を守るためにも他人や社会に迷惑を掛けないためにも、インスタの写真撮影の時にも(笑)、大変有効な指示の一つです。

 

万が一首輪やハーネスが外れてしまった時、リードが手から外れてしまった時、子供が道路の向こうから走ってきた時、狭い道で他人や他犬とすれ違う時、横断歩道で待っている時、角を曲がる前、他の犬が近づいてきた時、カフェで店員さんが給仕してくれる時、どれも「オスワリ」ですぐに「お尻を床に着ける」ことが出来、その体制を維持出来れば、困ることはほとんどないはずです。自分の犬の危険回避をすることが出来ますし、すれ違う人や、カフェの店員さん、他の犬の飼い主さんなど他人に迷惑を掛けることも減ります。

 

終わりに

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いかがでしたでしょうか?

犬は『弁別性』が高い生き物ゆえに、様々な場所でのしつけ・トレーニングが必要だということが理解できたかと思います。
『オスワリ』1つとっても、“いつでも”・“どこでも”できるようにするには、たくさん経験を積むことが大切です。

 

あらゆる状況下でも「オスワリ」と言われたら、犬が「床にお尻を着ける」ことが出来るように、色々な場所や時間、自分が命令を出す立ち位置などの場面を変えて、たくさん反復練習していきましょう!!

 

また、今回は特に「オスワリ」について解説を行ってきましたが、

・フセ

・タテ

・ハウス

・オイデ

・マテ

など、他の基本動作も例外なく、様々な状況で練習することをオススメします。

 

 

「なんとなく出来る」から、「どんな状況でも出来る」

ように、いろんな場面で練習していきましょう!

 

 

【栗林 純子】

空ドッグスクール

1972年生まれ。国立大学卒業後、大手金融サービス業の会社員を経てドッグトレーニングの世界に入る。家庭犬訓練所に入所し、実務経験を積む。ドッグスクールのインストラクターを経て、クリッカーレーニングを学ぶためにイギリスに短期留学。2004年に「空ドッグスクール」を立ち上げ独立。その後、犬の行動学を学び、米国CCPDT(Certification Council for Professional Dog Trainers)認定CPDT-KA国際ライセンスを取得。現在JAPDT(日本ペットドッグトレーナーズ協会)の事業企画委員を務める。空ドッグスクール代表兼ドッグトレーナー。

 

著書:犬から見える飼い主の姿